一生インポでいてくれや
一生一緒にいるのはいいけど、あんたとセックスするのはイヤ。
先日、森をテーマにした公開パネルディスカッションを聞く機会があった。
聞いていてどうにも物足りない気分になった。
パネリストの中に、天然素材の織物を天然素材で草木染にする活動をしている人がいたのだが、その人が合成染料を拒否し、自然と共生した生き方を称揚するのである。
そして、大量生産・大量消費のシステムを批判するのである。
それは、しかし、肝心な点を意図的に無視しているか、それに思い至らないか、いずれにせよ、無責任な考えだと思うのだ。
日本の江戸時代を再評価し、さらにはある種の理想社会として称賛するという傾向は、私が大学生だった四半世紀前くらいから、徐々に広まっていった考え方である。
江戸時代には、当然合成繊維も合成染料もないので、必然的に自然と共生した生き方がなされていた。
と同時に、いわゆる鎖国政策によって、食料品や衣料品といった生活必需品は日本列島内で自給自足されていた。
そしてリサイクルやリユースが発達した高度な循環型社会であった。
そのことは否定はしないが、肝心な点が一つある。
人口だ。
歴史人口学の研究によると、江戸時代の人口は、戦国乱世が終わり社会が安定した江戸時代の初期に増加するものの、以後はおよそ3000万人で横ばいになる。
裏返せば、この日本列島の中で自然と共生し、自給自足的な生活をする場合、人口は3000万人ほどが限度ということになる。
しかし、今の日本にはそのおよそ4倍の1億3000万人が存在する。
この1億3000万人が、江戸時代のようなエコロジーでスローライフな暮らしをすることは不可能だ。
当たり前だが、人口が4倍なら、食料も4倍必要だし、衣料も4倍必要だし、住む場所だって4倍必要だ。
江戸時代の状況のままであれば、田畑が4倍必要になるし、衣料を作るための天然素材も4倍必要だし、住宅用地も4倍、それを建てるための木材も4倍必要になる。
そうなったら、日本の森は破壊し尽くされてしまうだろう。
実例はアフリカにある。
アフリカでは人口の増加に伴い、薪にするための森林伐採が過剰になり、森林が壊滅して砂漠化が進んだ。
無論それだけが原因ではないが、もし彼らの住む地域のインフラが十分に整備されていて、薪ではなくガスや電気が燃料とされていたら、そうはならなかっただろう。
貧困も大きな要因だが、彼らの自然と共生した生き方が、人口の過剰によってむしろ自然を破壊したのだ。
現在の世界の人口規模で、件のパネリスト氏が推奨するような生活を行なったら、たちまち地球は不毛の地になってしまう。
200年前の生活は、200年前の人口規模でないと成り立たないのだ。
そのことを視野に入れないとしたら、例えば日本における過剰な1億人をどうするつもりなのか。
『お前たちは余分だから死んでくれ』というのか。
実際、エコでスローな江戸時代には、人口が過剰になることを恐れて、口減らしとして新生児が殺されたりしたのだ。
件のパネリスト氏のように天然素材のものを賛美し、化学合成したものを否定する人は多いが、視点を変えると、例えば合成繊維を合成染料で染めた服を着ることは、それを天然素材で製造した場合に伐採されたはずの原料植物を節約したことにもなる。
1億3000万人が天然素材の服を着たら、その原料植物は枯渇するが、3000万人が天然素材、1億人が合成繊維であれば、何とか成り立つのだ。
食料だって、機械化し、化学肥料を使用し、農薬を利用し、ハウス栽培も取り入れ、品種改良も行い、そうやって単位面積あたりの収穫量を増加させることで、1億3000万人にどうにか食料を行き渡らせている。
それでも輸入が必要なのだ。
それなのに、旬には旬のものをとハウス栽培を否定し、無農薬栽培を賛美するのは、無責任ではないのか。
自然と科学を対立するもののように捉える向きもあるが、人口の圧力による自然破壊を、科学を活用して防いでいるとも言えると思うのだが、どうか。
ちなみに私は、元々、少子化賛成、人口減少歓迎の立場であり、その向うに自然と共生した生き方を模索するならばアリだと思っているし、生き方の理想型のサンプルの提示という意味に限定すればスローライフも良いと思う。
しかし、人口問題を無視してそれを称揚するのは、不誠実極まりない態度だと思えて仕方がないのである。


Comments
数年前こちらのNHKが、「加賀百万石の現在の石高は?」と、石川富山両県の農協に問い合せて調べたことがあります。その結果は、約百万石でした。
反収は3~4倍に増えているので、農地は1/4~1/3程度に減っている計算になります。
ということは、今江戸時代の生活に戻ると3000万どころか、1000万人しか食っていけないんじゃなかろうか?あぁ、関東や近畿の農地はもっと減っているから1000万も難しそうだなぁ。
ところで福井新聞刊行の「越前笏谷石」の続編の存在はご存知でしたっけ?
Posted by: ぽのぽ | June 28, 2011 at 01:28 PM
お久しぶりです。
加賀百万石はいまも百万石でしたか。
興味深い話です。
「越前笏谷石」の続編なんかあったんですか?
知りませんでした。
これからamazonででも探してみます。
Posted by: liondog | June 28, 2011 at 07:41 PM
第三編まで出てるようです。内容まではわかりませんが。
アマゾンでダメなら勝木書店(リンク先)で探しませう。
Posted by: ぽのぽ | June 29, 2011 at 04:26 PM
おかげさまで無事に続編・第三編を手に入れました。
例によって、狛犬はあまり取り上げられていませんが(苦笑)
Posted by: liondog | July 02, 2011 at 01:56 PM